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JEWEL

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碧い空の果て 1

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

パチパチと、松明の火が時折爆ぜる音がした。
海斗は毛布にくるまりながら、暖を取っていた。
天幕の下でノートと教科書を広げ、勉強をしている海斗の前にナイジェルがやって来た。
「余り根詰めると、身体を壊すぞ?」
「ありがとう。」
ナイジェルから差し出された紅茶が入ったマグカップを受け取った海斗は、一口それを飲んで溜息を吐いた。
海斗は、何度も同じ数学の問題を解こうとしたのだが、解き方がわからず、鉛筆を持ったまま唸っていた。
「どうした?」
「この問題が解らなくて・・」
「あぁ、これならこの公式を・・」
ナイジェルに教えて貰ったら、その問題は簡単に出来た。
「ありがとう、ナイジェル。」
「今夜はもう休んだ方がいい。」
「わかった。」
海斗は教科書とノートを鞄の中にしまった後、ナイジェルと共に宿屋の中で休む事にした。
「遅かったわね。無理は禁物よ。」
「はい。」
翌朝、海斗は眠い目を擦りながら宿屋の厨房で一座の団員達の朝食を作っていた。
「カイト、あとはあたしがやるから、あんたは学校に行きなさい。」
「わかった。行って来ます。」
「試験、頑張りな!」
「はい!」
海斗が身支度を済ませ、学校に着くと、クラスの女子生徒が数人、彼女の方へと駆け寄って来た。
「あなた、あの一座の子?」
「そうだけど、それが何か?」
「そう。」
(何だったんだろ。)
海斗が教室に入ると、自分の机の上には“臭い子”と書かれた紙が置かれていた。
(馬鹿な事をしているな。)
昼休み、海斗は教室で一人、ナイジェルが作ってくれた弁当を食べていた。
試験を終えて学校から宿屋へと戻った海斗は、鞄を部屋に置いた後、溜息を吐いた。
「お帰り、試験はどうだった?」
「何とか出来たよ。ねぇナイジェル、俺って臭い?」
「臭くないぞ。どうして急にそんな事を言うんだ?」
「実は・・」
ナイジェルに海斗が学校であった事を話すと、彼はその話を聞いて酷く憤慨した。
「そんな連中の事は気にするな。」
「うん・・」
二人がそんな話をしていると、部屋のドアが誰かにノックされた。
「カイト、リアが大変なんだ!」
「すぐ行くわ。」
一座の団員・カイルと共に海斗がサーカスのテントの中へと入ると、そこには苦しそうに息をしているクマのリアの姿があった。
「急に苦しみ出して・・」
「俺に任せて。」
海斗はそう言ってリアの前にしゃがみ込むと、その身体を優しく擦りながら、呪文を唱えた。
すると、苦しそうに息をしていたリアは、安心したのか寝息を立てて眠り始めた。
「ありがとう、カイト。」
「レオン、リアはどうして苦しみ出したの?」
「あの子は、内臓に持病を抱えていてね。薬を飲ませて症状を抑えているんだが、中々良くならないね。」
「そうなの・・」
一座の獣医師・レオンは、そう言うと溜息を吐いた。
「それにしてもカイト、学校はどうだい?今日、試験だったんだろう?」
「全部完璧に出来たわ。」
「そう。友達は出来たかい?」
「いいえ。クラスの子は、俺の事を嫌いみたい。みんな、俺の事を臭いって思っているみたい。」
「そんな奴らの事は気にするな。学校には、色々な奴が居るからね。」
「俺、人よりも動物と仲良くなった方がいいや。動物は話せないけれど、気持ちは通じるもの。」
「それはそうだね。動物は人と違って見返りを求めない。」
リアの檻の前でそんな話を海斗とレオンがしていると、窓の外が騒がしくなった。
(何だ、さっきの音・・)
「レオン・・」
「カイト、動物達を頼む。わたしは暫く様子を見てくる。」
「うん・・」
海斗は騒ぎに気づいて興奮した動物達を落ち着かせていると、天蓋の中に銃で武装した男達が入って来た。
「あんた達、何者なの!?」
「この子だ、間違いない。」
「連れて行け。」
「はっ!」
「離せ!」
男達に羽交い締めにされ、天蓋の外へと出された海斗は、眼前に広がっている仲間達の死体を見て悲鳴を上げた。
「俺を、どうするつもりなの?」
「大丈夫だ、殺しはしない。」
「あんた達の目的は何?」
「ある方から、お前を連れて来るよう命じられた。」
男達の中から、長身の男が海斗の前に現れた。
「ねぇ、動物達はどうするの?もしかして、殺したりしないよね?」
「あぁ。」
「そろそろ行くぞ。」
訳がわからぬまま、海斗は男達と共に生まれ故郷の町を後にした。
同じ頃、王宮では一人の青年が病に苦しんでいた。
「皇太子様のご容態は?」
「余り芳しくありません。」
「そう。では、この薬を皇太子様に飲ませなさい。」
「わかりました。」
女は、侍女に毒薬を手渡した後、口元に笑みを浮かべた。
「王妃様、タルタン様がいらっしゃいました。」
「そう。すぐに行くと伝えて。」

(もうすぐ、この国はわたくしのものとなる。)

ここまで、長い道のりだった。

(玉座に座るまで、まだ油断してはいけない。“あの娘”を始末するまでは・・)


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